フレイルとは?今日からできる予防法とセルフチェックで健康寿命を延ばそう
フレイルとは?今日からできる予防法とセルフチェックで健康寿命を延ばそう

「最近、ちょっとした段差でつまずきやすくなった…」
「スーパーでの買い物が、前よりもしんどく感じる…」
年齢を重ねるなかで、ふと感じる心や身体の小さな変化。それは、健康と要介護の分かれ道である「フレイル」のサインかもしれません。
しかし、心配しすぎることはありません。フレイルは、早めに気づいて適切な対策をすれば、元の元気な状態に戻れる可能性を秘めています。
この記事では、「フレイルとは何か?」という基本から、ご自宅で簡単にできるセルフチェック、そして今日からすぐに始められる4つの予防法まで、どこよりも分かりやすく解説します。大切なのは「歳のせい」と諦めないこと。一緒にフレイルを正しく理解し、いきいきとした毎日を送るための第一歩を踏み出しましょう。
そもそも「フレイル」とは?健康と要介護の分かれ道
「フレイル」という言葉、なんとなく聞いたことはあるけれど、詳しくは知らないという方も多いのではないでしょうか。フレイルとは、英語の「Frailty(虚弱)」を語源とし、年齢とともに心と身体の働きが弱まり、健康と要介護の中間にいる状態を指します。病気ではないけれど、ささいなきっかけで一気に要介護状態に進んでしまう、とてもデリケートな時期なのです。しかし、裏を返せば、まだ引き返せるチャンスがある大切なサインともいえます。
健康な状態に戻れる可能性を秘めた段階
フレイルの一番大切なポイントは、「適切な対応をすれば、再び健康な状態に戻れる可能性がある」ということです。「もう年だから仕方ない」と諦めてしまうのは、非常にもったいないこと。フレイルは、いわば身体が発している「少し休んで、生活を見直してね」という黄色信号のようなものです。このサインに早く気づき、食事や運動などの生活習慣を少し見直すだけで、心身の機能は改善し、健康寿命をぐんと延ばすことができるのです。
サルコペニアやロコモとの違いは?
フレイルと似た言葉に「サルコペニア」や「ロコモ(ロコモティブシンドローム)」があります。これらは互いに関連していますが、少し意味が異なります。
- サルコペニア:加齢による「筋肉量・筋力の低下」に焦点を当てた状態です。
- ロコモ:骨や関節、筋肉といった運動器の障害により、「立つ・歩く」といった移動機能が低下した状態を指します。
- フレイル:これら身体的な問題だけでなく、気力の低下や物忘れといった精神・心理的な問題、閉じこもりや孤立といった社会的な問題までを含む、より広い概念です。
つまり、フレイルは身体だけでなく、心や社会とのつながりも含めた、総合的な衰えの状態といえるでしょう。
もしかしてフレイル?まずは自分でできる簡単チェックリスト

「自分や家族は大丈夫かな?」と気になったら、まずは簡単なセルフチェックをしてみましょう。以下の質問に「はい」「いいえ」で答えてみてください。これは、東京大学高齢社会総合研究機構が開発した「イレブン・チェック」を基にした簡易版です。
- 栄養:半年間で体重が2〜3kg減った
- 口腔:固いものが食べにくくなった
- 運動:ウォーキングなどの運動を週に1回もしていない
- 転倒:この1年で転んだことがある
- 外出:以前に比べて外出する回数が減った
- 認知:物忘れが気になるようになった
- 交流:友人と会ったり、電話したりすることが減った
- 気分:なんとなく気分が落ち込むことがある
いかがでしたか? 「はい」が3つ以上あった方は、フレイルの可能性があります。でも、落ち込む必要はありません。これは生活を見直す良いきっかけです。次の章で、なぜフレイルになるのか、そしてどうすれば予防できるのかを一緒に見ていきましょう。
なぜフレイルになる?3つの原因と悪循環の仕組み
フレイルは、たった一つの原因で起こるわけではありません。身体、心、社会という3つの側面が、互いに影響しあって進行していきます。そして、一度始まると、まるでドミノ倒しのように悪い連鎖が起こってしまうのが特徴です。この仕組みを知ることが、予防への第一歩となります。
身体的・精神的・社会的な3つの側面
フレイルの入り口は人それぞれですが、主に以下の3つの側面から始まります。
- 身体的フレイル:筋力の低下、食欲不振による低栄養、お口の機能の衰えなど、身体機能に関する衰えです。
- 精神・心理的フレイル:気分の落ち込み、うつ状態、意欲の低下、認知機能の低下などが含まれます。何事も億劫に感じてしまいます。
- 社会的フレイル:加齢や退職などをきっかけに社会とのつながりが希薄になり、孤立したり、閉じこもりがちになったりする状態です。
これらは独立しているわけではなく、密接に絡み合っています。
負の連鎖「フレイルサイクル」とは
フレイルの最も怖い点は、一度始まると「フレイルサイクル」と呼ばれる悪循環に陥りやすいことです。
例えば、「①食欲が落ちて栄養不足になる」と、「②筋肉量が減って体力も低下」します。すると、「③動くのがおっくうになり、活動量が減少」。その結果、消費エネルギーが減るので「④さらにお腹が空かなくなり、食欲が低下する…」といった具合です。
このサイクルに、外出が減って人との交流がなくなるといった社会的な要因や、気分の落ち込みといった精神的な要因が加わることで、悪循環はさらに加速し、気づいたときには要介護状態の一歩手前まで進んでしまうのです。
今日から実践!フレイル予防に重要な4つの柱

フレイルサイクルの悪循環を断ち切るには、「栄養」「運動」「社会参加」「口腔ケア」の4つの柱をバランスよく実践することが重要です。どれも難しいことではありません。毎日の生活にちょっとした工夫を取り入れるだけで、大きな予防効果が期待できます。
①【栄養】バランスの良い食事とタンパク質のちょい足し
年齢を重ねると食が細くなりがちですが、元気な身体を維持するためには、特に筋肉の材料となるタンパク質をしっかり摂ることが不可欠です。三食バランスの良い食事を基本としながら、意識してタンパク質を「ちょい足し」してみましょう。1日3食、肉、魚、卵、大豆製品などをまんべんなく取り入れるのが理想です。難しく考えず、いつもの食事に一品加えることから始めてみませんか。
手軽にタンパク質を補う食材アイデア
毎日の食事で手軽にタンパク質をプラスできる食材をご紹介します。
- 朝食に:パンにチーズや卵をプラス、ご飯なら納豆やしらすを
- 昼食に:お蕎麦やうどんに卵や油揚げを追加
- 夕食に:お味噌汁に豆腐を入れる、冷奴を一品加える
- 間食に:ヨーグルトや牛乳、豆乳を飲む
コンビニのサラダチキンやゆで卵も上手に活用しましょう。
②【運動】自宅でできる簡単な筋力・バランストレーニング
フレイル予防の運動は、きついトレーニングである必要はありません。大切なのは、無理なく毎日続けることです。特に、下半身の筋肉を維持することは、転倒予防に直結します。テレビを見ながら、歯を磨きながらといった「ながら運動」でも十分効果があります。まずは「座ってできる運動」から始めて、慣れてきたら「立ってできる運動」にも挑戦してみましょう。
座ってできる運動と立ってできる運動
- 座ってできる運動
- かかとの上げ下げ:椅子に座り、かかとをゆっくり上げ下げします。ふくらはぎの筋肉を鍛えます。
- 膝伸ばし:椅子に深く座り、片足ずつゆっくりと膝を伸ばして5秒キープ。太ももの前の筋肉を鍛えます。
- 立ってできる運動(壁や椅子につかまりながらでOK)
- 片足立ち:左右30秒ずつ行い、バランス感覚を養います。
- スクワット:ゆっくり腰を落とし、ゆっくり戻します。お尻と太ももの大きな筋肉を鍛えます。
③【社会参加】人とのつながりが心と身体を元気にする
人と会って話したり、笑ったりすることは、脳に良い刺激を与え、心の健康を保つための最高の栄養剤です。趣味のサークルに参加する、友人とランチに出かける、ボランティア活動を始めるなど、どんな形でも構いません。意識的に外に出て、誰かと交流する機会を持つことが、閉じこもりを防ぎ、生活にハリをもたらしてくれます。家族や友人との電話やメールも立派な社会参加の一つです。
「通いの場」など社会参加のヒント
「どこに行けばいいかわからない」という方は、お住まいの地域の情報を探してみましょう。
- 地域の「通いの場」:体操教室や趣味の会など、高齢者が集う場所が各地にあります。
- シルバー人材センター:経験を活かして働くこともできます。
- 自治体の広報誌やホームページ:講座やイベントの情報が掲載されています。
まずは地域包括支援センターに相談してみるのも良い方法です。
④【口腔ケア】しっかり噛んで食べるためのお口の体操
「食べること」は、栄養を摂るだけでなく、人生の大きな楽しみの一つです。しかし、お口の機能が衰える(オーラルフレイル)と、うまく噛めなかったり、むせやすくなったりして、食事が楽しめなくなってしまいます。これが低栄養の入り口になることも。お口の筋肉を鍛え、唾液の分泌を促す簡単な体操を取り入れて、いつまでもしっかり噛めるお口を維持しましょう。
パタカラ体操や早口言葉で口の機能を維持
楽しみながらできるお口の体操をご紹介します。
- パタカラ体操:「パ」「タ」「カ」「ラ」と、一文字ずつはっきり、大きく口を動かして発音します。食べるための一連の動きをスムーズにします。
- 早口言葉:「生麦生米生卵」など、言いやすいものでOKです。舌や唇の動きを滑らかにします。
- 唾液腺マッサージ:耳の下や顎の下を優しくマッサージすると、唾液が出やすくなります。
食前に行うと特に効果的です。
4つの柱と合わせて意識したいフレイル予防のポイント

フレイル予防の基本は「栄養・運動・社会参加・口腔ケア」の4つの柱ですが、これらに加えて注意しておきたいポイントがいくつかあります。ご自身の健康管理の一環として、ぜひ頭の片隅に置いておいてください。
持病(生活習慣病)のコントロール
高血圧や糖尿病、脂質異常症といった生活習慣病は、それ自体がフレイルのリスクを高めることが知られています。これらの持病があると、動脈硬化が進み、身体の活動性が低下しやすくなります。かかりつけ医の指示に従ってきちんと治療を続け、病状を安定させることが、フレイル予防においても非常に重要です。定期的な健康診断も忘れずに受けましょう。
多すぎる薬(ポリファーマシー)に注意
年齢を重ねると、複数の病気のためにたくさんの薬を飲む「ポリファーマシー」という状態になりがちです。薬の種類が増えすぎると、薬同士の相互作用によって、ふらつきや転倒、物忘れといった副作用が出やすくなることがあります。気になる症状があれば、「お薬手帳」を持ってかかりつけ医や薬剤師に相談し、本当に必要な薬かを見直してもらうことが大切です。
感染症の予防も大切
肺炎やインフルエンザなどの感染症にかかると、体力が一気に消耗し、食欲も低下します。それがきっかけで寝込んでしまい、そのままフレイルが進行してしまうケースは少なくありません。日頃からの手洗いやうがい、十分な休養はもちろん、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンなど、予防できるものは積極的に活用して、感染症から身を守る意識を持ちましょう。
社会全体で取り組むフレイル予防の先進事例
フレイル予防は、個人だけの問題ではありません。今、日本中の自治体や企業が、高齢者の皆さんがいつまでも元気に暮らせるよう、さまざまな取り組みを始めています。こうしたサポートを上手に活用することも、フレイル予防の賢い方法の一つです。
自治体の取り組み事例
多くの自治体では、住民が気軽に参加できるフレイル予防プログラムを実施しています。例えば、地域の特色を取り入れた「ご当地体操」を開発したり、栄養士や理学療法士を講師に招いた「フレイル予防講座」を開催したりしています。お住まいの市町村の広報誌やホームページをチェックしたり、地域包括支援センターに問い合わせたりすると、きっと身近な場所で参加できる活動が見つかるはずです。
民間企業の取り組み事例
民間企業も、フレイル予防に力を入れています。高齢者向けの機能改善トレーニングに特化したフィットネスジムが増えているほか、栄養バランスを考えた配食サービスも充実してきました。また、自治体と民間企業が連携し、住民がスポーツジムを割引価格で利用できる制度を設けている地域もあります。こうしたサービスを利用することで、予防の取り組みがより継続しやすくなります。
まとめ:フレイルを正しく理解し、予防に取り組んで健康長寿を目指しましょう

今回は、健康寿命を延ばすための鍵となる「フレイル」について、その意味から予防法まで詳しく解説しました。
フレイルは「歳のせい」ではなく、誰にでも起こりうる状態です。しかし、決して怖いものではありません。
早く気づき、適切な対策を始めることで、元の元気な状態に戻れる可能性を秘めています。そのための大切な柱が、以下の4つでしたね。
- 【栄養】 バランスの良い食事と、筋肉の材料になるタンパク質の「ちょい足し」
- 【運動】 無理のない範囲で、毎日続けられる簡単な筋トレ
- 【社会参加】 人とのおしゃべりや交流で、心と脳を元気に
- 【口腔ケア】 お口の体操で、いつまでもしっかり食べて楽しむ
この記事を読んで、「これならできそう」と思えるものが一つでも見つかったなら、ぜひ今日から始めてみてください。その小さな一歩が、10年後、20年後のあなたの健康でいきいきとした暮らしにつながっています。フレイルを正しく理解し、予防に取り組んで、素晴らしい健康長寿を目指しましょう。